昨晩、急に声が出なくなった。何を喋ろうとしても、「あ」と「う」の音しか出ない。恋が叶わなかった人魚姫は、声を失って泡になるんだったなぁ、なんてことをぼんやりと考えていた。
(リスパダールを大量に飲んでドーパミン抑制して、筋肉の硬直を取ったら無事戻りました。)
人魚姫は、王子がよく分からんぽっと出の虚言癖の姫と結婚する時に、「あなたを助けたのは私です、そいつが助けたなんて嘘です」と言わなかった。偉いな、と思う。私ならめちゃくちゃ騒ぎ立てると思う。そもそも、「助けてくれたから」という理由で王子が虚言姫を好きになったのかは分からないけど…。
あぁ、でも私も、好きな人に対して強く言い返すことなんかできないな。母音と撥音便の繰り返しで、会話した気になっているだけで、それは声がないのと同じなのかもしれない。
王子を刺せば、声は戻ってくるらしい。私も君を切ってしまえば、喋れるようになるだろうか。「口から先に生まれてきた」と言われていた頃の感覚がもうない。「恋をすると阿呆になる」と言って私のことを馬鹿にしまくっていた哲学科の学友は、ある意味で正しかったのかもしれない。