「もしも願い一つだけ叶うなら 君の側で眠らせて どんな場所でもいいよ」
わかる。側でまた眠りたいと思う女を思い浮かべる。キリンビールしか入っていない生活感のない冷蔵庫、男と寝た痕の付いた煎餅布団、畳、野犬の吠える声、あの日、広島の端、女三人。
もう随分会っていない。まだ学生をしているのか、社会人になったのか。あの陰鬱とした城下町に残ったのか、また都会で夢を探しているのか。
寿町で肌を寄せあっていた頃、私たちはまだ瑞々しい感性を持った少女であった。今は裏切られた青年の姿で、路地に隠れながら金が落とされるのを待つ日々です。
「言いたいことなんてない ただもう一度会いたい 言いたいこと言えない 根性無しかもしれない それでいいけど」
初めてで最後の夜、君に言いたくて言えなくてやっと言えた言葉は「愛してる」ではなく謝罪だった。
私の家が裕福であることを不快に思っていた貴女に、なにか還元したかったけど、親が裕福でも与えられるものには制限があって、少ない小遣いでやりくりしていた私に貴女は不満だったんだろうなと、稼げるようになった今思う。
自分にはどうにもできない申し訳なさ、ずっと抱えて生きてきた。幼い頃、同年代のジプシー女の子にお金を強請られた時も、私には何も出来なくて、変わることも出来なくて、ただもうこれ以上責められたくなくて、居心地が悪くて消えてしまいたかった。
君の側で眠りたいけれど、君の側にいた時とてもいたたまれなくて居心地が悪かったことを忘れられない。
横で別の女、君が昨日抱いた女が寝ていて、今日私が抱かれる番なのが、怖かった。
今まで贅沢出来なかったから、他者の気持ちを嫐って消費欲を満たそうとする貴女が、人間離れしているもののようで、怖かった。
男に、祖父に、知的障害者に身体をまさぐられた時より、心に重い帳が落ちた。
忘れたくても忘れられない人
どうかもう夢に出てこないで欲しい 私に関わらないくらい高次の世界で幸せに生きて欲しい 私はメシアになりたいから 最下層で人々に笑顔を振りまくので
もう全部赦してください。