ゆんちゃん
幼稚園の頃、幼稚園のカリキュラムに手習いがあるわけでもないのに、みんなは当たり前のように平仮名を書けていた。私だけ平仮名が書けなかった。母親も平仮名を書けなかったから、家でそれを教わることが出来なかった。
ゆんちゃんという女の子がいた。いつもニコニコしていて、白くて顔の綺麗な、優しい女の子だった。取り巻きがいるような、マドンナ的存在だった。アトピーで肌が汚く、幼い頃から弱視で分厚い眼鏡をかけていて皆に汚がられていた私にも優しくしてくれたのを覚えている。
「ゆんちゃんすきです」と見様見真似で手紙を書こうとして、「ゆ」の字がどうしても書けなかった。好きな子の名前すら書けない自分を、幼稚園児ながら恥ずかしく思ったのが、狂ったように図書館で本を読み、勉強をしていた小学生低学年の頃の私を作った。
小学五年生の頃、中学受験の塾でゆんちゃんに再開した時、私よりかなり下のクラスだったゆんちゃんに、勝手に失望してしまってそこから連絡を取らなくなってしまった。
先日、ゆんちゃんそっくりな美人の女性を見る機会があり、そんなゆんちゃんのことと、ゆんちゃんのおかげで平仮名や漢字を勉強するようになったことを思い出していた。
恋心ほどの動機づけはない。